高級料亭「船場吉兆」での料理や食材の使いまわしが発覚。加えて食品の産地(ブランド)が偽装されていたことも明るみに出た。このことで当の船場吉兆は廃業にまで追い込まれる顛末となり、これは今や船場吉兆のみならず、食品業界全体の信用問題へと発展している。
何が問題だったのか
船場吉兆の釈明によれば、「いったん他の客に出したが手付かずの料理を再利用した」とのこと。確かに、精魂こめてせっかくつくった料理。それが手付かずのまま下げられてきたら(本来はそれは捨てられるわけだが)それは誰でも勿体無いと思うもの。特に高級料亭であるだけに、食材も効果であり、料理も一流の料理人の手がかかっているわけで、そこには一定のコストが発生している。
問題は、その本来捨てられるべき料理が他の客に再利用されている、ということ。これにより店としては料理にかかる手間とコストを削減できることになる。また、見た目に手付かずの料理であれば、若干手直しすれば見た目にはわからないし、店としては合理的なのだ。ただ、よもや船場吉兆のような高級料亭でそのような行為が行われているとは、客だって夢にも思っていなかったろう。まさにそこが今回の問題の根幹であるといえる。
使いまわしはいけないことか
料理を再利用する、ということは、ごく普通の家庭や友人や知り合い同士の食事においては日常的に行われていることだろう。それを料亭がやってはいけない最大の理由は、その料理が商品であるからだ。客としても、新品であると信じていた商品が他の客の下がり物だとなれば心中穏やかではないだろう。ましてそれが口に入れる料理ともなれば、安全性の問題にも発展する。
また、船場吉兆の場合は、ただの食堂ではなく、料理が高級であることを売りにしている店である、という点も、今回の問題が大きく注目される理由になっている。
他の店は大丈夫か
高級料亭でそのような行為が常識的に行われていたのである。当然、他の飲食店は大丈夫なのか、という疑念は浮かんでくるだろう。一度客に出された料理や食材を他の客に使いまわす。そのようなことをしている店は、残念ながらゼロではないことを予想するのは容易だ。実際、食品に関する不祥事は船場吉兆だけでなく、有名な菓子メーカーや食品ブランドにおいても、ここ最近で続々と発覚している。
実はこのような問題が発覚する前から、世間(消費者の間)では「もしかして」とは思っていたことではないだろうか。今、船場吉兆のような飲食店の模範となるべき店舗でそのような行為が発覚した為に、「やっぱりそうか」と不安が確信に変わり、今、社会問題として大きく取り上げられるようになった、ということだろうと思う。
これはある意味、飲食店や食品業界の姿勢を正す良い機会を与えた事件、といえなくもない。
消費者はどうすべきか
そのような行為が食品業界で常態化しているからといって、消費者はやはり食品を買わないわけにはいかず、これまで通り食品業界から提供されるものを信用していかなければならない。特定の店舗やメーカーにのみそのような問題があるのであれば、その店やメーカーを選択しなければすむのだが、おそらく問題がある店やメーカーはひとつやふたつではないだろう。
これに関して、実際消費者が打つ手はない。つまり、信用するしかない。そして、業界はそのような優位の上にあぐらをかいている、というのが現状といえるのではないか。食材の産地を偽装しても売れる。賞味期限を延ばしても売れる。食材を再利用しても売れる。要は、そのような行為をうまく隠蔽してどれだけ利益を上げられるか。経営陣がそこに大きく注力していたのだとすれば、実に由々しき事態だったといえる。
とはいえ、ここ最近は、食材、食品の値上がりも激しく、どこかを合理化しなければ従来通りの利益を上げていくことができなくなっているのも実情で、率直な言い方をすれば、どこかで”ズル”をしなければ、現実問題として経営が立ち行かないという事情もあるのだろう。それだけに、今後は、食品の流通や扱い方、その品質や安全性などの管理の仕組みがどこまで機能するかが問われていくことになると共に、食品の流通に関する政治的な対応も迫られている。