科学ファンタジー

その老人に出会ったのは、
天山山脈の中腹のなだらかな草原だった。
アインシュタインの写真を見せると、老人はいった。
「自分がまだ少年だった頃、今と同じように羊を見ていると、
 この男がやって来た。」
アインシュタインと少年は何を話したのだろう。
老人の記憶はおぼろげで、なかなか答えが返ってこない。
ようやく彼は思い出したようにいった。
「石の話をした。石はなぜ落ちるのかと、聞かれたような気がする。」
重力の話に違いない。
「何と答えたのか。」
と聞くと、老人は
さっきからこちらをみている少年を指差していった。
「わしの孫にきいてくれ。」
「あなたに聞きたいのです。」
私は迫ったが、老人はいう。
「誰でも答えは同じさ。」
そこで、私は少年にきいた。
「なぜ、石は落ちるの。」
少年は答えた。
「石が落ちたがっているからだよ。」
( NHKスペシャル「アインシュタインロマン」より )

人は直感で何かを知る、ということがあります。
その裏づけや根拠は何もないのだけど、
そう知覚する、感覚する、といった方が良いかもしれない。
かつての数学者フェルマーは、自然数 n が 3 以上のとき
xn + yn = zn となる 0 でない自然数 x, y, z は存在しない
と直感した。
その論理的証明は、フェルマー自身の手によって
示されていたともそうでないともいわれているけど、
おそらく、彼がそれを思いついた時点で、彼の頭の中に
その論理的、数学的なロジックがあったとは考えがたい。
とにかく「そう感じた」のではないか、と。
数学の様々な公式や定理も、
物理学やその他の様々な自然科学における法則も、
最初から論理的に導かれたものがどれだけあるか。
その多くは、まず先立って、直感や思いつきがあり、
その後に、その真実性を証明するために
論理的思考が後続する、という因果をとっているものが
ほとんどなのではないかと。
とはいえ、普段からそのようなことを考えていないと
直感や思いつきが理論として明文化することはないのだけど、
理論になった時点で、それが誰でも理解できるということは、
実は、理論にならずとも、最初から誰でも知っていたこと、
ということになる。
人は、そういった科学理論を得る以前、自然に対して
様々な人格や意識、精神のようなものを見ていた。
それは、西洋のキリスト教や中東のイスラム教のような
あからさまな人格神を据えることもあるし、
東洋のように、森や水や風などという自然事象に
何か精霊のようなものが宿っているというような
漠然としたものもあるけど、その信心深さは同じでしょう。
昔の人は、そのようなものを直感していたということ。
それが人の間で語り継がれるうちに
次第に人間に都合の良い神様仏様に変貌してしまってるけど、
それらが宗教や思想となるより前、そう発想した段階では、
純粋に自然の中にそのような何かを感じたのではないか。
本当に理屈抜きで、真っ白な心で(これは無理だろうけど)
人間の精神、心というのは何か、と考えてみる。
それは物質的なものだろうか。
脳科学的には、人間などの高度な哺乳類の思考は
脳内の電気信号の連鎖によって発生しているのだ
と説明されるけど、これに素直に同意できるかどうか。
現象の因果関係だけを見れば、確かにその通りかもしれない。
しかし、その理屈を専門に研究している科学者であっても
その心のどこかに納得いってない部分があるんじゃないか。
例えば、脳内のある部位の神経細胞のつながりや
電気信号の連関によって「嬉しい」とか「悲しい」などの
感情が発生するということが解明されたとする。
しかし、それで「嬉しい」とか「悲しい」という感情や
それを創出する心というシステムについて解決した、
といえるだろうか。
動物の身体は、確かに物質です。
感覚に任せてみてもそれは素直に受け入れられると思うが、
それを感じたり考えたりしている主体たる精神自体も
物質に依存したものであるかどうかは、いかにもあやしい。
理性的には、物質であるはずだ、と思っていても、
感覚がそれを許さないという気がする。
もしかすると、物質には心や精神などのような
性質があるのかもしれないけどね。
とりあえず、人が「物質」と呼んでいるそれ単体や
単純な構造物には、心や精神はない、という前提でしょう。
それが何らかのメカニズムによって
何か精神的なものが生み出される、と考えられている。
実は、それは逆なんじゃないのか?
と、一度真面目に疑ってみても良いんじゃないかなと。
つまり、物質というのは、精神の形態のひとつか
もしくは属性である、ということ。
ファンタジーの世界では
好んでそういう考え方が採用されてるんですけどね。
人は下手に物質文明を得てしまったがために、
ものごとを遍く物質主体で考え過ぎてるという気もする。
まぁ、それを含めて真理なんでしょう。

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