「こんにちは、旅人さん」
「どうも」
「この国へいらっしゃるのは初めてですか」
「ええ」
「この国へ移住をお考えですか?」
「そのつもりはありません」
「そうですか。この国はあなたのような外国からいらっしゃる若者にとって
とても住みやすい国なんですがね」
「それは何故ですか?」
「この国では、高等教育の過程まで学びたいという子供たちを
全面的に支援するという法律が、この間できたのです」
「全面的に?」
「ええ。早い話、高等教育を修了するまでの学費と生活費が
国から全て支給されるようになっているのです」
「でも、それはこの国の国民じゃなきゃダメなんでしょう?」
「いいえ。
外国からいらっしゃる方々でも、この国で学びたいという方であれば
差別せず支援するということになってます」
「へー、よほど金持ちな国なんですね」
「実は、そんなことはないんです」
「お金がないと、そんなことできないんじゃ?」
「この国の王様は、最近変わったんですよ。
今までの王様は、いわば弱肉強食を推進し、金持ちはさらに金持ちになる支援をして、
その金持ちたちに多くの税金を納めさせるという政策をとっていました」
「はぁ」
「当然、そのような政策では、金持ちでない人は一向に豊かにならず、
貧乏な人はどんどん貧乏な状態に追い込まれていました」
「そうでしょうね」
「そんなとき、もともとその王家とは仲の悪かった貴族の中から、
そんな王は追い出して、貧乏な弱者でも豊かに暮らせる新たな国をつくろう
という動きが出てきたのです」
「ふむ」
「弱者の味方を謳うその貴族は、きっと王家には金持ちたちからせしめた
多くの財宝があるはずだと考え、自分たちがこの国を治めるようになれば
王家の財宝を差し押さえ、それで貧しい人たちを豊かにできるといいました」
「豊かに……ですか」
「そのひとつが、子供や若者の教育費、生活費の全面支援ですね」
「なるほど」
「彼らは多くの民衆の支持を受けて、ついにときの王族打倒に成功しました」
「それで、その“弱者の味方”の貴族が今の王族になったと」
「そうです」
「では、今の王様は前王家の財宝で貧乏人を豊かにしたわけですね」
「ところが、そんな財宝は実はなかったんですよ」
「あら、そうなんだ。じゃ、どうやって今の気前の良い政策を?」
「借金です。大量の借金をして、子供や若者の教育支援をしているんです」
「お金がないならやめればいいのに」
「今の王族は、貧しい人“弱者”を豊かにすると約束して大きな支持を得たのです。
今の地位にあるのも、そうした多くの“弱者”の支持があるからで、
そう簡単にその約束を破るわけにはいかないのです」
「ははぁ」
「ですので、今は借金をしてでも全面的な教育支援をしなければならない」
「なぜ子供たちの教育を?」
「子供は、社会的弱者の筆頭ですから。
それに将来の国の担い手でもある子供たちを、今の王は非常に重視しています」
「外国人も?」
「今の王族は、この国に在住している外国人からも多くの支持を得ています」
「?」
「今の王は“弱者”の味方ですから。
前の王のときは、外国人は王様に会うことも意見することもできず、
この国の中で極めて低い地位にあったわけです」
「そんな外国人の味方でもあったというわけですか」
「ええ。
ですから、まだお若い、しかも外国人であるあなたのような方が移住するには、
非常にお得な国ということなんですよ」
「でも、借金で国民を、外国人も支援しているんですよね」
「そうです」
「その借金はいつ返せるの?」
「わかりません」
「……」
「未来の国民、つまり今の子供たちの教育を充実させれば、
彼らが将来の生産者となり、借金を返すことができると考えているようです」
「もし、そうならなかったら?」
「今の王は、多分大丈夫だといっています」
「……。仮にそうだとして、その前に国が潰れない?」
「潰れるかもしれません」
「……」
「でも、心配いりません」
「……?」
「あなたは外国人ですから、この国の負債に一切関係ありません。
潰れそうになったら、また他所の国へ移住すれば良いのですよ」
「それは、確かに」
「どうです?我が国に移住する気になりましたか?」
「いえ、申し訳ないですけど、この国はそう長く持ちそうにないので
ボクはやっぱり出て行くことにします」
「そうですか。それは残念です」
「ところで、ここまでの話を聞いていて思ったんだけど、
キミはこの国が潰れて欲しいと思ってるの?」
「いいえ、なるべくそうはなって欲しくはありませんし、
多分そうならないと思っています」
「……なるほど。そういう国なんですね。
やっぱりボクは次の国へ行くことにします」
「わかりました。さようなら、旅人さん」
—
時雨沢恵一ならこう書くかな、みたいな。
コメント
笑えない…けど笑いました。笑
めちゃくちゃ
”言いえて妙!”
この話はフィクションです。あくまでも。
こんな馬鹿な国、あるわけないですよね。あははっ。