昔々、因幡の国に年老いた白兎がいた。
ある日、白兎が昼寝をしていると、突然の大雨に襲われて海の向こう、淤岐(おき)ノ島に流されてしまった。困った兎は、海を泳いでいるたくさんの鰐(わに)を見てひらめいた。そして、こうそそのかした。
「やあ、鰐よ。わしの仲間は君らなんかよりずっと多いぞ」
鰐は負けじと
「何をいう。わしらの方が大いに決まっている」
兎はしめしめとばかりに
「では、お前たちの数を数えてやろう。この島から海岸まで一列に並んでみな。このわしが数えてやるさ。」
正直な鰐は、きれいに海岸まで一列に並んだ。兎はその頭の上をぽんぽんと飛びながら数をかぞえる。そして、最後の二、三匹となったところで、兎は我慢しきれず、その真意を打ち明けてしまった。
「君らは馬鹿だな。本当は、わしは、あの島から因幡へ渡りたかっただけなんだよ」
怒った鰐は、兎の毛皮を剥いでしまった。海岸で泣いている兎の側を、出雲へ向かう途中の八十神(やそがみ)たちが通りかかる。
「おや、その姿、どうしたんだい」
「鰐に毛皮を剥がれてしまったのです」
八十神は、兎をからかって
「それは、海水につかって、海風に吹かれていれば治るさ」
といった。兎はその通りにしたが、皮を剥がれた痛みは増すばかり。痛くて泣いているところ、今度は、八十神たちの弟である大国主命(おおくにぬしのみこと)が通りかかる。大国様は哀れんで、兎にこう助言した。
「池の真水で身を清めて、蒲の穂に包まっていれば、そのうち毛皮も元通りになろう」
兎はいわれた通りにしたところ、みるみる毛皮が元に戻ったとさ。
これは「古事記」の一節で「因幡の白兎」として知られるくだりである。
いや、今日ニュースで、白兎(はくと)海水浴場にサメが大量発生している、というのをやっていて「今時、因幡の白兎を知っている人って、どれだけいるだろうね?」といっていたので、ちょっと思い出しながら書いてみた。ちなみに、地元では、サメのことを「わに」という。ワニは、アマゾンとかナイルとかにいるあれじゃないく、サメのこと。
そういえば、今日、関西から来た協力会社の人が「そのデータをいろうんですよね」といっていたのを聞いて、友人が「いろう?」と訝った。「いろう」って、東の人
には通じないのかな…